3人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕が?」
えぇ…と恨み屋。
静かに、むしろ音もなく伸ばされた恨み屋の手は彼の口許をさわる。
「いっ…!」
失礼と恨み屋は絆創膏を渡す。
また沈黙。
「恨み屋って何をするんですか?」
『あなたの恨みをいただき、それを代行します。』
彼は背筋が凍る思いをした。
恨み屋の声は丸で穏やかだが、言葉は抜き身の刀だった。
ただし…と続ける恨み屋。
『人を恨まば穴二つ…
対価をいただきます。』
「対価…?」
生唾を飲むことになる彼。
恨み屋は沈黙。
笑うかのようにランタンの炎が揺らめく。
『貴方の大切なものをいただきます。』
真っ暗の闇は彼を母のように心地よく包み込んでいた。
しかし、彼は冷や汗が止まらなかった。
…この人を信じていいのだろうか…
しかし、確実な雰囲気がある。
まさに渡りに船だ。
だけど対価って…
散々迷って彼は口を開く。
「…お願いします。」
確かに…と恨み屋が呟く。
そうすると、強い風が恨み屋から吹き、目を開くとそこはただの袋小路。
煉瓦の壁、自分が座っているのは壊れかけの木箱。
最早首をかしげるしか出来なくなった彼は、静かに立ち上がり家路に就いた。
最初のコメントを投稿しよう!