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「おらぁ!」
鋭い鈍痛が彼に走る。
苦い味は恐らく血。
口のなかが切れたらしい。
「キモいんだよ!」
罵詈雑言を吐かれ、立てなくなるまで一方的に殴られたのに、彼は逃げも反撃もしない。
ようやく飽きてきた暴力を振るう者達は、唾を吐きその場を後にする。
彼はポケットをまさぐるが、先ほど財布ごと全てを奪われたため何もなかった。
この度に強い憎悪が込み上げる。
だが、彼には何もできなかった。
恨む以外には。
……さん…
小さな声が聞こえた気がした。
彼は小さく辺りを見渡すが、誰もいない。
まだたてない体を休ませるように項垂れると、再び声が聞こえる。
…お兄さん…
歓楽街が近いのだろうか。
そんなことを考えながらそっと闇を向くと、そこにはさっきまでなかったはずの明かりがあった。
…?
いや、彼が気づかなかっただけなのかもしれない。
だが、彼は呼ばれている気がしてならなかった。
「…っ」
壁に手をつき、ゆっくりとした足取りで明かりに向かう。
次第に明かりは小さな蝋燭で、照らされているのは扉であると気がついた。
「恨み…屋?」
看板はまるで江戸にかかれたかのような古めかしさと厳格な雰囲気が漂っていた。
『お入んなさい…』
中から声がすると扉がひとりでに開く。
その中は闇ばかりだったが、彼はためらわずに中に入った。
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