一章 多分救われない人達

2/8
前へ
/170ページ
次へ
「次の方ぁー入ってきやがれコノヤロー!」 病院なのに叫び声をあげるな。医師が。 「おーい次の方ぁー?」 全く誰だよ次の方。 「今田さーん(イマダ)ー入ってきなさい」 あ。僕だった。 白く重い扉を開く。 「ぅえっ? 久しぶりじゃない!」 頭をポニーテールにして、右手にパン持ちながら、佐倉(サクラ)先生が驚く。 「なんだ今田って君のことだったのねー…」 患者を前にしても食べる手を止めない。 やるな佐倉香雨(コウ)。 「どうも……先生は相変わらずで。」 佐倉先生は構わずにパンを食べ続ける。 「ま。君の前じゃなきゃこんな態度しないけどねー」 あら。僕の嘘吐き癖がうつった? 「で。どうしたの?」 「いや……訊きたいことがありまして。」 佐倉先生はやっと食べるのをやめる。 「……珍しい。何?」 「……ミクちゃんは今どうしてるんですか?」 先生の顔色が変わる。 「ミク……ってのは音無(オトナシ)?」 「はい。」 あくまでも冷静を装う僕。 冷静でなんか居られるか。 「音無は相変わらずね。」 「相変わらず?」 「相変わらず君を探してて、アタシには厳しい。」 「相当嫌われてますね」 「本当よー! 助けたのはアタシなのに」 いじけるフリをする先生。 おっと時間が無いぜ。 「ありがとうございました。」 僕は立ち上がった。 「あ。君ぃ」 先生に呼び止められた「何でしょう?」 「君、何かしようとしてない?」 おーバレバレ。 「勉強しなきゃなーって思ってますが何か?」 おっと。 またつまらぬ嘘を吐いてしまったぜ。 「ふーん……」 「あの、僕急いでるんで……失礼します。」 「あ。ちょっ」ばたん。 ドアを勢いよく閉めたので、振動で震える手。 「…………」 ごめんなさい。佐倉先生。 僕、何かをしでかします。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加