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その日からオレは、巫浄とやらの数学の時間に限り、保健室の住人となった。
さっきまで体調を崩した生徒が居て、お迎えに来てもらったりしてバタバタしてて。
オレはそんな様子を、ふよふよ見てたはずなんだけど。
「疲れてるね、翔くん」
『……そーお?』
ばっちりうたたねを目撃されてからじゃ、誤魔化すのにも無理があるだろうか。
真琴のキレーな顔が近いのと、ガス欠がバレるんじゃないかっていう不安。二重の意味でドキドキする。
真琴はオレの頭の辺りをさらりと細い指で撫ぜて、誤魔化したいオレの気持ちを汲んでくれるつもりみたい。
『この中温かいからさ、どーしても眠くなるじゃない?』
振り払えない眠気を、ぽかぽかのヒーターのせいにした。
温度なんてよくわかんないんだけど、雨の日みたいに窓を滑る水滴が、外気との温度差を教えてくれてる。
保健室は眠くなるもんでしょって言い分は、幽霊においても通じるんじゃないかな。
そう、と真琴は温かい目で頷いて。
「少し、眠ってるといいよ」
やぁらかな声が眠気を誘う。
『さんきゅ……』
真琴の穏やかな声音に誘われるままに、オレは静かに目を閉じた。
一睡もせずに里央の寝顔を見つめてるっていう夜更かしのせいだけじゃなくて、最近ほんとに酷く疲れる。
この世界に留まるために、実はそれなりに無理してるらしくって。
寿命の近いオレは、尚のことバテるんだろうか。
疲れるっていう表現は、そもそもオレには当てはまらないのかもしれないけど、生きてる人間だったらそれだなって感覚。
身体が重くて、自由になってくれない感じ。
いつまでたっても眠くって、眠ったまんま空気に溶けちゃいそうな感じ。
だから実は、目を閉じる度に恐怖する。目が覚める度に、安堵する。
まだこの世に居るのねって、ちゃんと起きられたのねって。
これもやっぱり、さよならの予兆なのかな。
もうすぐ消えちゃうんだから、ちゃんと覚悟決めときなさいよって。
親切じゃない神様が、おせっかい焼いてくれちゃってるのかな。
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