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「それでね、里央ちゃんってば、その女の子を庇って自分がケガしちゃって」
薄いカーテン越しの午後の日差しは柔らかで、目に優しい。
真琴の穏やかなテノールが囁き明かす、オレの知らない里央の姿。
「なのにちっとも自分のことには頓着しなくて、その子のことばっかり大丈夫なのか!?って青くなってるんだ。自分の方がよっぽど大ケガだって言うのに」
苦笑いで明かすのは、今年の体育祭の時の話だ。
棒倒しで倒れてきた棒からクラスメイトを庇って、里央は大きなアザを作った。
少しばかり日焼けした腕に、ぐるぐる巻きの包帯がやけに目だって。
『オレも帰ってきた里央見たときは、心臓痛かったぁ』
どんな無茶をしたんだろうとか、どれだけ痛い思いをしたんだろうとか、仕方ないってわかってても歯がゆくて落ち着かなくて。
『ちょっとした拍子に痛そうな顔するから、その度に代わりたいって思ったよね』
苦く吐き出せば、真琴のピアノでもやってそうに整った指先がぽんぽんと頭を撫でていく。
こうして真琴と話しているのは、好きだ。
言葉を交わすのは真琴となのに、里央との時間までもが、増えていく気がする。
知っている里央の表情が、間違いなく増えていく。
里央じゃない人と里央のことを話してるっていう、これまでになかった会話の形。
なんだかちょっと新鮮で、楽しい。
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