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保健室のドアが、そろりと開いた。
桜子と千祐が不安げな表情で、中を覗き込んでくる。
ホームルームが始まっても戻ってこない里央を、心配して寄ってくれたに違いなかった。
愛されてるね、里央。
千祐は、余計な気もするけど。
「入って、くれるかな」
真琴が、2人を招いた。
2本並んだ治療用の長椅子の奥の方に教師2人が、手前側に生徒2人と幽霊1人が並ぶ。
「翔くん、いいかな……??」
話しても、いいかな。
困った顔の問いかけに、頷かないわけにはいかなくて。
『いいよ。2人にも、世話になったし』
諦めとかじゃなくて、なんとなく覚悟のついた心地でそう言った。
里央にも知られちゃった今、2人に隠してたってしょうがない。
ほんとはオレから話すのが筋ってヤツなんだろうけど、オレがなにをどう言ったところで、桜子には届かないからさ。
説明は、真琴に任せた。
オレがもうじき、多分消えてしまうこと。
それを里央は、知らなかったこと。
そして今日、ついに知ってしまったこと。
そのせいでパニックを起こして、鎮静剤で眠ってること。
千祐は射殺しそうな目でオレを見て、だけどすぐ、唇をかんだ。
オレが好き好んで消えてしまうわけじゃないことも、何一つとして打てる手がないことも、わかっていたから。
桜子は口元を押えて、目を潤ませてる。
真琴の声が途切れると、沈黙だけが、夕焼け色の室内を満たした。
重苦しい空気も底を突こうかという頃、キシリとベッドが浅く軋んで、里央の目覚めを知らせてくれた。
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