砂時計の砂は落ちる。

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巫浄は一目オレを見て、ふんと小さく鼻を鳴らすと、オレの頭に右手をかざした。 ぶつぶつとなんだか眠くなるような、温かい音律を紡いで。 巫浄が唱え終わると同時に、里央と千祐がわぁと歓声を上げた。 「翔、戻ってるのだ!!」 半信半疑で見やった手は、昨日までの色を取り戻していて。 信じられなくて、まじまじと巫浄を見上げてしまう。 「見掛け倒しだ」 巫浄のどことなく硬い言葉が、これは単なる視覚的な効果で、根本的な状況の変化は起こせないのだと告げていた。 それでも、十分以上に十分だった。 だって、身体が砂時計みたいになっちゃって。 さらさら砂が落ちていくのを、自分で感じなきゃなんないなんて。 そんな恐ろしいことって、ないじゃない。 完璧なブラックボックスだった方が、まだ怖くない。  
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