さよならは言わない。

12/25
前へ
/96ページ
次へ
黄昏は、とっくに闇に溶けてしまった。 季節外れの打ち上げ花火が、近づいた閉館を鮮やかに告げて散り、世界は急に、静かになった。 イルミネーションが色とりどり、蛍みたいに淡く輝く。 星がちかちかと瞬いていて、爪先で引っかいたみたいな月が遠く、しっとりと笑みを作ってた。 「翔」 次はなにに乗りたい?って問いかけに返ってきたのは、少し切羽詰った里央の声。 微笑みかけて、昼間里央がはしゃいでた噴水の前まで導いた。 「楽しかった?」 向き合って、腰にそっと腕を回す。 力強い頷きに、安堵した。 「なら、よかった」 「嬉しくて楽しくて、夢みたいだったのだ」 「オレも、すっごく楽しかった。幸せだった」 心臓が痛くて、たまんないぐらいに。    
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加