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市では日が最も高くなる頃にいっとき人影がまばらになる。
「……そろそろか…」
ひとりの少年とも少女ともつかない若者が、薄汚れた砂除けのマントで身を隠すように包み込み市の様子を窺っていた。
深い緑の双眸が日光の照り返しに僅かに細められる。
光の具合で玉<ギョク>のように輝くその瞳が、ある一点を凝視している。
視線の先はあまり人目につかないところに置いてある果物籠――商品だ
「………っし」
若者が今まさに飛び出そうとしたその時。
「誰かっ!助け……きゃぁっ!!」
視界に突如現れた少女が叫んで……後を追うようにして現れた男に取り押さえられた。
きちんとした身なりから、少女が何か悪さをしたのではないだろうことは判る。
……となると…
「……男の方か…」
若者は標的を果物籠から男へと変えた。
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