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やがて青年が口を開いた。
「わたしに関わらない方がよいということだ。
……まぁ、二度も逢うことはないだろうがな。」
低く冷たい声で、囁くように言った。
そのまま戸の外へと歩き出す。
「ちょっ、ちょっと待って!
1つ訊きたいことが……」
はっとして呼び止める。
青年が花蕾の方へと向き直る。
綺麗な双眸が静かに見つめている……
「このくらいの背の高さで、」
微妙な気まずさの中、そう言いながら、花蕾は自分の目の高さに手をかざす。
「真っ直ぐな黒髪で、おっとりした顔の女の人なんだけど……」
青年は何かを思案するように頬を掻いた後、
「……記憶に無いな。」と言って外へと出て行ってしまった。
慌てて花蕾が追いかけるように外に出た時にはもう、既に青年の姿は夕闇の中に消えていた。
「ちょっとぉ……
どこなのよ、ここ!」
先に訊いておくべきだったと激しく後悔した花蕾であった。
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