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「―――この大陸には、ここ白都のある朱栄をはじめ……」
春らしい暖かい風が室内へと訪れて眠気を誘う。
「……川の向こうの地では我が国の敵である緑玄が……」
陽射しも柔らかく夢と現の境界線が少しずつ取り払われてゆく……
「そして、この城壁の向こうには青玉という……」
こんなに良い天気なのに勉強などできようか。
「………」
それに、今日は出かけなくてはならない。運命が動き出すのだ。この日を何年待ちわびたことか。
「……💢
蘭華様っ、今はお勉強の時間で御座いますよ!」
…………。
「蘭華様っ💢起きてくださいませ!」
「あらぁ?花蕾。
怒ってばかりいては長生きは出来ませんよ。」
のんびりとした口調で少女が言った。長い艶やかな髪は黒、光の加減で紫色にも見える。
「長生き出来ないのは蘭華様の所為ですからね。」
呆れたようにもう1人の少女が言った。年のほどは蘭華という少女と同じか2~3歳下くらいだろう。腰まであるような長い髪は漆黒で、きれいに先が揃えられている。
「蘭華様はこの国の姫君としての自覚をもうすこしお持ちになって……」
「そんなことより、花蕾。
わたくし、宮の外にでたいわ。」
ここ香州では青玉・朱栄・緑玄の3つの大国が争いを繰り返していた。
自由な遊牧の民からなる青玉、武芸に秀でた緑玄、商人気質で頭の良い朱栄。
朱栄が政権を握ってから50年目、白都という1部の人々が呪術的な能力を持つ民族が現れ政権を勝ち取った。今から13年前のことだ。
白都13年のいま、皇帝には蘭華の父君が着き、争いのない日々が続いている。
蘭華の父君はここ100年で見ても最も温厚な好人物として民からは慕われている。治安はそれほど良くはないが、町ゆく人々の顔は晴れやかだ。
朱栄の領土の中に白都の都はある。
その朱栄の川向こうに緑玄があり、周りを囲むように広大な草原からなる青玉がある。
朱栄の中に白都が現れたこと以外は領土の配置は100年以上前からかわっていない。
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