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クーちゃんの声は、聞いてるこっちが悲しくなるくらい悲痛な響きをしてた。
……でも、カイマ博士は同情や嘲笑をするでもなく、ただ楽しげに……無邪気なままに言った。
「残念だけど~、お姫様の重要性はそんなに高くないのよね。私としては自分の好きな研究が出来れば国のトップが変わろうと関係ないし、そういうのはクーデターを考えた人に言ってね~」
交代とでも言うように博士はラングさんの肩を叩き、そして僕のほうへと歩いてくる。
「ごめんね~、君には関係ない話なのに待たせちゃって。それじゃ、始めようか?」
「……カイマ博士は、さっきのクーちゃんの言葉を聞いて何も思わなかったんですか?」
「思うって何を?」
眼鏡の奥にある桃色の瞳が、本当に何も分からないといった視線を送ってくる。
この人は……そうか、この人は興味のないものには感心すら抱かないのか。
さっき『私の好きな研究』と言ってた……つまりこの触手というのは、博士の興味をそそる研究だったのだ。
研究をする際に起こした行動によって様々な結果が生まれても、研究に害為すもの以外はどうでもいい……この人の世界では、他人は小石や紙屑くらいの存在なのだろう。
「……クーちゃん達の側にいても研究は出来たんじゃないですか?」
「ん~、ある程度はね。でもお姫様のお父さん――つまり王様は頭の固い人でねぇ。今の凛斗君みたいな触手体を作る事を認めてくれなかったわ。人体実験が一番効率がいいのにね、だからまぁ……現場でやっちゃおうかなって。でも帰った時に捕まったら意味がないから、上でも変えとこうかなって~――と、理解してもらえたかしら?」
……確かに理解はした、でも納得はできない。
クーデターの為に博士が行動したとは思えないけど、でもこの人なら……笑顔で他人を壊すのくらい、平然とやってのけそうだ。
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