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ぼた雪の舞う、十一月の午後の空。
鉛色の雲は枯れはてた山々と妙なコントラストを織りなし、僕の視界に広がる景色は寂しい冬の装いをしていた。
十一月の天気にしては珍しい朝からの雪で、左右にある稲の刈り終えられた田んぼには、目に分かるくらいの雪が積もっている。あぜ道にも踏み固められた氷のような雪が積もっていて、僕は転ばないように慎重に歩いていた。
「――痛ったぁい!?」
後ろから倒れる音と声が聞こえたので振り向けば、この季節だっていうのに短パンを履いた小学生が視界に飛び込んできた。
「だ、大丈夫?」
すぐに駆け寄って手を貸そうかと思ったけど、ふと僕は考えて、ちょっと悪戯をしてみようと決めた。
右の膝を怪我したみたいで、血を滲ませてるその子を見て、僕は精神を集中させる。背中から『アレ』を生やすようなイメージを想像すると、学ランの背中部分が徐々に盛り上がり、着込んだ服の下を這いずる感触が本物となる。
両手の袖口から出たアレを近づけてやると、その子は一瞬凄く驚いた顔をしたけど、すぐに不機嫌極まりないような顔をして僕を睨みつけた。
「……何してるの、凜斗(りんと)兄?」
「いや、ちょっと驚かそうと……ごめん、柚子(ゆず)ちゃん」
三歳年下の幼なじみに窘められて思わず謝り、袖口から出たアレ――『触手』は、しょんぼりとするかのように地面に垂れてしまった。
柚子ちゃんはへの字口のままランドセルから絆創膏を取り出し、膝の傷へと貼る。
ツインテールにしている茶髪が微妙に型くずれしてるのに気付いたので、僕は触手を引っ込ませて柚子ちゃんに近づき、自分の手でそれを直してあげた。
茶髪と同色の目が何してるのと聞いてきているようだったけど、なぜか言葉で聞かれる事はなかった。
「ん、何?」
マフラーに埋まった柚子ちゃんの口元が動いた気がしたので尋ねたら、今度は無言で殴られてしまった。
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