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小さな山を背負うように建つ母屋、少し離れた場所に蔵と離れ座敷がある。無駄に大きい門の前で柚子ちゃんと別れ、僕は壁に備え付けてある小門から中に入った。
風情とか四季とか色々テーマがあって作られた中庭らしいけど、僕には興味がない。たまに池の鯉に餌をやるくらいで、感激したりはしないものだ。
屋敷も同じで、生まれた時からこの大きさなので、周りの友達から大きいやら立派やら言われても、どうにもピンと来ない。
唯一、この生まれた時から変わらない日常と、違うものを挙げるとすれば――
「凛々(りんりん)、帰ったのか。ならばまずはこの許嫁たるワシに、挨拶するもんじゃぞ」
「……ただいま、クチャロ姫」
「クーちゃんで良いと言ったじゃろうが。親愛の情は愛称からじゃぞ?」
……この人の事であろう。
縁側でどてらを着込んだ『異星人』に言われても、なんか説得力に欠ける言葉である。
大体凛々って、僕はどこぞのパンダですか?
「クーちゃんはそんなところで何してたんです? 昨日みたいに、平行世界と多次元的宇宙の相互関係でも考えてたんですか?」
昨日何となしに尋ねたら二時間ばかり話を聞かされた。内容の理解はまったく出来なかったので、この発言は単なる嫌味である。
「そんな無利益な事を考えて何になるんじゃ? 全宇宙において、子供は難しい事を考えなくていい権利を有しておるのじゃよ。それより今日は――」
なら昨日は一体と突っ込む前に、クーちゃんが縁側から裸足で僕に近付いてくる。
太陽の光は見えないというのに、キラキラと光る長い金髪。浅黒い肌は真っ白なワンピースと対照的で、どてら付きだと言うのに、何かドキッとする。
僕や柚子ちゃんより低い身長なのに、ルビーのような瞳に見つめられると僕は緊張してしまう。
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