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「はぁ……」
何とか自室までやって来て鍵を閉めると、僕は盛大に溜め息を吐いた。
最後に呟いたクーちゃんの言葉も気になるけど、今は自分の身のほうを心配したい。というより、疲れた。
「何で、僕なんだよ……」
「それは凜斗様に適性があったからでございます」
「ってうわぁああ!?」
床にへたり込んでいた僕の目の前で、ベッドの布団が盛り上がり勢い良く捲れたと思うと、中から見知った人が姿を現した。
エプロンとカチューシャと肌の白さ以外、黒で染まっているクーちゃんの侍女、ミツキさんだった。
「み、ミツキさん? 僕の部屋で一体何をしてるんですか?」
出来るだけ冷静に、でも実際は冷や汗を流しながら愛想笑いを浮かべる。
ミツキさんがどんな仕事をしてるのか僕は知らないけど、ただこれだけは言える。
……身体のそこら中に刃物を隠してる人は、下手に刺激しないほうがいい。
「……違います」
「え?」
ミツキさんはベッドを降りると(当たり前のように土足だった)目の前に立ち、いまだ立ち上がれていない僕を無表情で見下ろしている。
ポニーテールに纏められた銀の髪に、簡素なメイド服。
同級生の女子より身長は高く、何となく高校生っぽい年齢に見える。色白の肌に反抗するようなルビーみたいな瞳はクーちゃんと同じで、唇の赤さだけが妙に大人っぽかった。
「ミッちゃんと呼ばれないと、親愛の情を感じらずに気分が悪いです」
「ごごごごめんなさいミッちゃん!?」
言う事は、まさに子供っぽすぎるんだけども……。
愛称で呼ばれた事に満足したのか雰囲気が和らぎ、ミッちゃんは潜っていたベッドに腰掛けると隣をポンポンと叩いた。
「情事の際に寒くないようにと温めておきました。姫とヌプヌプするには適温になっていますよ」
「何その擬音!? こ、心遣いは嬉しいんですけど、僕にはその気は全然無いというか……」
「……自信が無いのなら、私で試してもよろしいですよ?」
「うわわわわいきなり脱がないで下さいっ!? 試すとかそんな、そんな事するわけないでしょ!!」
胸元のボタンを次々開けるミッちゃんの手を何とか止め、露わになっている白くて大きな谷間を見ないように、僕はミッちゃんに背中を向けるように立った。
「本当にもう、勘弁してください! 僕にそういう事をする気は無いんですから」
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