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「貴様ら……誰に雇われた? どれも同じ顔で、しかし知らん顔ときておる……言え、今ならワシの機嫌を直せるかもしれんぞ」
「……武器を捨てる事をお勧めします」
変化した僕の聴力は、まだ遠く離れた二人の声を余すことなく拾えた。
その声は十数人のスーツ姿達に囲まれているのに冷静で、でも僕には分かる……それが虚勢だという事が。
「聞いておるのか貴様ら!」
クーちゃんの怒声に、だけどスーツ姿の男達は無言のままだった。
僕が目に意識を集中すると、遠い皆の表情が間近に見えた。
さながら双眼鏡のような目で男達を見ると、その顔は不気味なくらい無表情だった。
「雇われてなんていませんよ。我々に金銭など物欲は無く、ただ姫様を捕らえる為に存在するのみ」
やはり特徴のない声。
どの顔が喋ったのかさえよく分からないまま、平坦な声は続く。
「我々は無駄な殺しを命じられていません」
「我々の行動を邪魔する障害には、対抗措置を取らせてもらいます」
「――我々に、大人しく捕まる事を提案します」
男達全員が、手に持っているプラズマ銃(どんな名前か分からないから、仕方なくこう呼ぶ)をクーちゃんに向ける。
ミッちゃんが盾になるように立ち塞がるけど、円の形で囲まれてるからあまり意味はない。
「こやつら、もしや……ミツキ」
「はい」
返事をするや否やミッちゃんはナイフを投げ、一瞬で前方にいた男の喉に突き刺さった。
だけど男は微動だにせず、また刺された箇所からは血は一滴も出ない。
男が無造作にナイフを抜くと、ナイフはまるで何十年と放ったらかしになってたみたいに錆びて、ボロボロと崩れてしまった。
「やはり、有機体の擬体運用か……完全に消滅させない限り、何度でも増殖復元する。媒体が何かしら必要じゃと思うが、しかしこんなものまで用意するとは、ワシはつくづく人気者じゃの」
「……私が特攻しますから、姫はそこから逃げてください」
ミッちゃんが更にナイフを取り出し、視線鋭く前を見た。
そして走り出そうとした瞬間――後ろに回ったクーちゃんから、思いっきり胸を揉まれた。
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