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声と同時に僕の身体は前方へと押され、というか蹴られ、顔面から畳にダイブをしてしまった。
痛みと衝撃で触手もビックリしたのか姿を潜め、戒めの解かれたクーちゃんとミッちゃんは上手に着地した。
だけど、表情はとても不満げなものをしている。ぶつけた鼻を押さえながらそんな様子を見ていると、先ほど僕を蹴り倒した人物が怒声をあげた。
「ちょっと! 前も言ったけど凛斗兄をイジメないでよ!! その権利があるのは私だけなんだからねっ」
「ヒドいよ柚子ちゃんっ!?」
夕方、門の前で別れた柚子ちゃんがいつもの短パンTシャツ姿になってベッドの上に仁王立ちしていた。
扉の鍵は掛かってるはずなのにと聞こうとしたら、まるで地の底から響かせたようにドスの利いた声をクーちゃんが発する。
聞いた瞬間、怖くて泣きそうになった。
「小娘……ワシの簡易ワープ装置を使うとは中々にいい度胸をしてるのぉ? 朝日を拝めなくしてやろうかガキんちょがぁっ!?」
「ふんっ、人の幼なじみにちょっかい出す淫乱なんかに言われたくないよ! いいから凛斗兄を元に戻してよね!!」
「だぁれが戻すか馬鹿たれ。凛々はワシの婚約者に決定したのじゃ、お主こそ諦めたほうが身のためじゃよ。何たって美の権化のようなワシが――」
「私よりチビが何言うのよ」
……一触即発っていうのは、まさにこういう事を言うんだろうか?
すっかり気持ちも落ち着いて(二人に気圧されてのほうが正しいかもしれない)、触手の出る気配はまったくない。
このまま二人がいがみ合うのは凄く駄目な事だと思うけど、ただこの場を逃げ出せるのなら……。
「二人共、ごめんっ」
「逃がしませんよ、凛斗様」
――小声で謝って逃げようとした瞬間、気配を隠していたのかすっかり忘れていたミッちゃんに捕まえられた。ていうより、凄い力で抱きつかれた。
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