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クーちゃんの態度が気になり詳しく聞こうと思った時――全身を揺さぶるような大音量が響き渡った。
まるで聞いた事のない、奇怪な生物のような鳴き声。思わず耳を塞ごうとした僕に、クーちゃんは腕を掴んでそれを制した。
「ミツキが上手くやったようじゃ。もうすぐでミズヌシの全機能が一時停止する、耳を塞ぐよりやる事があるじゃろう」
「う、うん」
そうだ、僕がしっかりしないとこの作戦は失敗するんだ……僕は足の裏に触手を出現させ跳躍の体勢をとる。
靴裏が破けた靴は、何だか気になったので脱ぎ捨てた。
「それじゃあ……頼むぞ、凛々」
「任せて、クーちゃん」
僕はクーちゃんの肩と膝裏に手を回し、お姫様抱っこをした。
クーちゃんは驚くくらい軽くて、細くて、少しでも力を入れると壊れそうで……僕は大切なものを扱うように、優しく抱いた。
「ふふっ」
「なんじゃ凛々、気色悪い笑い声を上げて?」
「気色悪い!? いや、まさか本物のお姫様をこんな風に抱っこする日が来るなんて、夢にも思わなかったからさ」
そう――クーちゃんやミッちゃん、王子と出会う前の僕は、至って普通の中学生だった。
少しばかり周りの環境が特殊な、それでもごくごく普通の……毎日に張り合いというか、やる気を出せない、普通という毎日に慣れてしまった人間だった。
なのに、突然僕の世界を壊すように皆が現れて……時間は瞬く間に過ぎて、濃密な刻(とき)ばかりで。
「……本当に、色んな事があったよね」
「そんな物思いに耽るほど、何かがあったとは思わんがな……それに」
お姫様抱っこの体勢なので普段より近いクーちゃんが、いつもの自信に満ちて輝くような笑顔で、何でもない事のように言った。
「それにまだまだ、じゃろう? 春という季節には桜も見たいし、お花見もしたい。夏には海に行ってワシの水着姿で凛々をメロメロにする予定じゃし、秋は……とにかく、ワシらはまだまだやる事がいっぱいあるんじゃ。ワシらの時間はいっぱいあって――ワシらの刻は、繋がっておるのじゃからな」
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