~耐え難く、かけがえのない刻の合間の終わり~

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――形のない柔らかなものが、僕を包んでいた。 春の日差しのように暖かくて、安らぎと平穏で心を満たしてくれる。 今を幸せと言わないなら、いつ幸せなのだろう? そう思ってしまうくらい僕はただ幸せで、このまま深く、深く眠りにつこうとして―― ――甘ったるい匂いがした瞬間、激しい頭痛にみまわれた。 安らぎは動揺に変わり、平穏は異常事態に変貌する。身体の至る所から火を吹くみたいに痛みが吹き出し、視界の奥では閃光が瞬く。 そして閃光の間から見えたのは……名前も知らない学生を、僕が虐殺する場面だった。 僕の視界で捉えてるはずなのに、そこで荒れ狂っているのは僕じゃない。 怒りをたぎらす、触手の王子――友達だと語った、もう一人の僕のような存在。 (あぁ……そっか。僕がこんな事を言ったから、最近王子は出てこないのか。 そりゃそうだよね。友達っていった相手から……あんな風に思われたんなら) 次第に僕の意識が明確なものへとなっていく。 ふわふわとした幸福感は煙のように消え、実感的な肉体の重みを感じられる。 王子との不仲は僕のせいだ、僕の身勝手な思いが王子を……友達を傷つけたんだ。 でも、それよりも許せないのは――。 「――僕は、あなたを許しませんよ。カイマ博士」 「……あらぁ、まさか目覚めるなんてね。意識が混濁している間に終わらせたかったけど~、仕方ないわね?」 水底から水面へ浮き上がったような、それくらい急激な目覚め。 周りの状況も何も分からない中、カイマ博士が近くにいる事だけは分かっていた。 この……嗅ぐ度に身体を蝕むような、桃によく似た匂いのおかげで。 「思い出しました……校舎裏で、何があったのか。カイマ博士が何をしたのか。“実験”と“観察”……僕と王子を、どうするつもりですか?」 敵意をむき出しに、僕はカイマ博士を問いただす。 だけど博士は意に介した様子もなく、ともすれば楽しそうに微笑を浮かべるのみだった。
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