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百人規模の人間が途方に暮れることとなるのだが、そのニュースは地方紙の片隅に小さく載る程度のものでしかなかった。
親会社は現存するし、なによりも国家規模での不況と重なり、私の工場の倒産などは些細なものでしかなかったのだろう。
この二ヶ月、同僚が二人自殺した。明日の見えない状況に辟易してしまったのだろか? 首を吊る事で生きる苦しさ、悩みから解放されようとしたのだろう。
二人の死は〝おくやみ〟の欄に小さく書かれているだけでニュースにもならず、一面を飾るのは口の曲がった首相の詭弁と、ミサイルが日本に向けられているというものだった。
二人は社会に殺された、そして死人に口はないのだ……と感じる。
私は家族の為にとデリヘルの送迎の仕事をしている。それなりの収入でなんとか生活を維持しているような感じである。
三歳になる娘は、保育園に預け、妻はパートにでている。日曜なんてものは存在せず、私は朝から夜まで送迎を続ける。
非正規雇用の身ながら準社員として扱われるため、保険や年金などの保証は会社が支払ってくれる。家計は、ただのバイトに比べればかなり助かっているのだ。本当に有り難いことである。 日々の生活に潤いは無いが、小さな安定が存在する。父親としての自分の価値は最低ランクなのかもしれないが、生活の為と割り切るしかなかった。私より不幸な人間なんて五万といるのだから。
私は青いプラスティックのベンチの上で、ポケットから取り出したソフトパックのタバコの一本を引き抜き、百円ライターで火をつけた。大きく吸い込み吐き出すと目の前に霞がかった世界が広がった。
ゆったりと流れる時間の中で、日常のせわしなさを吐き出すようにタバコの煙を何度も吐き出した。私の中に溜まっている不安や恐れ。
言いようのないものが充満している。押しつぶされそうになる時もある。
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