Fine

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 送迎の車の中を思い出す。人気のあまりない百合子という女性がいる。一人娘を保育園に預け、夕方五時までの勤務を月曜から金曜までこなす色白のぽっちゃりとした人だ。  事務所の待機室ではリーダー的存在で、毎日明るく振る舞う彼女が、送迎の車の中で、ぽつりと愚痴をこぼしたことがあった。小さな愚痴は波紋を広げ、いつしか止まらなくなっていった。 「私はさ、こんな仕事にプライド持ってやってるのよ。私の体で何かをお客さんに与えることが出来るなら、それは幸せなことでしょ?」  バックミラー越しに見えた百合子の目には、うっすらと涙が滲んでいた。私は「はい」と返事をすることで、その場を取り繕う。  それ以上は何も言えない。  そのままシクシクと泣き出したので事務所の近くの自販機の前で車を停め、缶コーヒーを一本購入し、運転席に乗り込んで顔も見ずにそっと差しだす。掠れた「ありがとう」を聞いて、ひとつ胸が踊った。  同情や恋ではなく、小さな優越感に似た感情だった。落ち着くまで、車外でタバコに火をつける。一本吸い終わる頃には百合子も普段と変わらぬ笑みを浮かべていた。 「ありがとう」 「はい」  私は車を走らせた。それからは、いつもと変わらぬ日常があり、自分なりに仕事をこなしている。
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