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風が吹く。
あぁ、緑の匂いがする。
せっかく、今日のデートの為に髪型を整えたのに、
ぐしゃぐしゃになってしまう。
風に吹かないでと祈っても結局は無駄で、
強い風が私達二人の間を吹き抜ける。
「今日は風が強いね」
「あぁ…でも今日は天気が良いよな」
「うん!」
ぐしゃぐしゃになった髪を、隣にいる彼はそっと撫でてくれた。
強い風が吹く。
吹かないでと祈っても来る。
もしかしたら、万が一訪れるかもしれない悲しみのように。
もしかしたら、万が一訪れるかもしれない切なさのように。
「おら、手、つなぐぞ」
強い風が吹く。
その中で、抵抗するように私達は強く手をつないだ。
「暑いね」
「熱いな」
両方がなんとなく呟いた意味はどっちの意味か。
もしかしたら辛く切ない苦しみが来るかもしれない。
それは分からない事。
未来なんて分からない。
風がいつ吹くなんて分からないように。
けれどこうして二人が強く手を繋げば、
大丈夫なのだと思いたい。
「ねぇ、好きだよ」
「……知ってるよ」
お互い顔を真っ赤にしながら、
強い風の中を進んでいく。
楽しいばかりが恋じゃない。
辛い事もあるのが恋愛。
風が吹く。
吹かないでと祈っても吹く。
だからね、私はあなたのために、
いつくるか分からない強風に怯えるよりも、
それを乗り越えられるように精一杯愛そうと思ったんだ。
風が吹く。
強い風が。
繋いだ手がほどけないように、
そっと手に力を入れた。
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