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現在八時三十五分
とある教室の中で、息を荒くしている一人の男がいた。
「よぉ、危なかったな俊」
長身で多少引き締まった身体の男が爽快な笑顔を見せながら話しかけてきた。
「あぁ……」
あと数分遅れていたら試合終了だったな、と少しづつ荒れた呼吸を落ち着かせながら言った。
「剣道部で鍛えられた脚が役に立ったじゃないか」
お疲れ様、と言った様な表情で六郷速人が話し続ける。
「その様子じゃあテレビは勿論、新聞も見てないな?」
「分かった様な事聞くなよ、朝飯だって食ってないんだ、後で昼奢ってくれよ」
パンで良いなら、と言い、速人は今日の新聞を見せてきた。
「見ろよこれ」
真剣な顔で一つの記事に指を指す。
【一家全員自殺か】と書かれたその記事を指差し、六郷は淡々と話を続ける。
「目撃者は新聞配達の人なんだってさ、いつもの様に配達してたら、玄関のドアの下から血の様なものが流れて来てたから、慌てて入ろうとしたら鍵も掛かってなくて、入って見たら家族全員刃物で切り刻まれて、刃物を持ってた女もその場で死んでいたらしい。」
詳しいのはこれからニュースでやるだろう、と言って、六郷速人の長話が終わった。
「物騒だな」
あんまり一気に言われた為に、脳がまだ処理しきれていないので、適当な言葉で流しておく。
「俺はさ、この事件は自殺じゃないような気がするんだよ」
「他に何が考えられるんだよ」
「そうだな、刃物持ってた女に何か乗り移ってたとかさ」
「そんな訳ねぇだろ、ホントに怪奇現象の好きな奴だなお前は」
「そんなの分んないだろ!?」
気に触れたのか知らないが、速人は突然大きな声を出しながら立ち上がった。
当然の如く、速人の声は教室全域に響き、大半のクラスの人間が二人の方に視線を向けた。
しばらく静寂があった後で、速人は顔を赤くして再び椅子に座ったところで担任が来てHRが始まった。
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