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「夜口、君は――」
続けようとして、すぐ後ろに夜口がいることに気付いた。僕を盾のようにして、顔だけを覗かせている。
「どうしても腐敗は進んじゃうのね。設定温度が高いのかな。冷やせば大丈夫だと思ってたのに、難しいのね」
「警察には?」
「……言ってない。それよりわたしがやったのかって聞かないの?」
夜口は猫のように摺りよってきて、今度は僕の顔を覗き込んだ。わずかに目を細めて僕を凝視している。試されているのか。
「それはないだろう。自分でやったのなら、わざわざ僕に教える理由がない」
当たり障りのないところから切り出してみた。夜口は反応を見せず、ただ僕を見上げている。
「橘くんってつまらない。リアクションが薄いもの」
たん、と後ろに跳ぶ夜口。
「これ、死体なのよ? 人が死んでるの。普通驚かない?」
「驚いたさ。感情が顔に現れづらい質なんだ。誘う相手を間違えたな」
夜口は首を横に振る。
「ううん。合ってるよ。だって橘くんもわたしと同じでこういう事に興味があるじゃない。図書館で話した事、覚えてるでしょ?」
「忘れるわけがない。あれは僕の秘密だった」
夜口が嬉しそうに笑う。
君で二人目だ、僕の秘密を知るのは。
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