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そしてもう誰にも知られるわけにはいかない。この世界で人として生きていくためにも――絶対に。
「やっぱり誘って良かった。橘くんで良かった」
夜口は子供のようにはしゃいで、電灯を振り回している。
「あのね、もっと面白いモノがあるの」
夜口はバッグを床に置き、中を漁る。乱雑と入れられた勉強道具や雑貨。その中から取り出されたのは手術などで使われそうなゴム手袋だった。それを右手に嵌めて、死体の詰まった冷蔵庫に近付いていく。足取りは軽い。
「何をする気だ?」
「そこで見ていて」
夜口は右手を死体の顔へと伸ばした。腫れ物に触るような優しい手つきで額に添える。親指を瞼に乗せ、目を開くように持ち上げた。
「見える?」
「ああ――」
よく見える。
眼球が、ない。
くり抜かれている。まるで最初から無かったかのような自然さ。けれど決定的な不自然さをも併せ持つ矛盾。
本来在るべきものがないというのは滑稽で、けれど美しい。非現実が現実と融解している。
「不思議な光景だな」
「これを見てそんな風に言うなんて、やっぱりきみは面白いね」
「つまらないと言ったり面白いと言ったり、大変な奴だ」
夜口はくすくすと笑う。楽しそうに、犯しそうに笑うのだ。
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