case1.蒐集家の目

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「ねえ橘くん」 「なに?」 「こっちの冷蔵庫も見てみたいと思うの。昨日来た時には何も無かったんだけど、一日経つし、もしかしたら――」  夜口は三台あるうちの真ん中の冷蔵庫に手をかけた。 「好きにしなよ」  僕の言葉を聞いてかどうかは分からないけど、冷蔵庫の扉が開かれる。  謀ったように死体は置かれていた。  最初と同じように女性で、裸体だ。こちらも膝を抱えてうずくまっている。 「被害者が増えちゃった」 「……嬉しそうだな」 「そんなことない。同じ女性だもの、同情くらいするよ」  ならどうして最初の死体を発見した時点で通報しなかったんだ? そうすれば少なくとも二人目の被害は防げたんじゃないか? ――とは言わなかった。  そんなの同情より好奇心が勝っただけの話だ。夜口にとって、警察に通報することで得るものはない。メリットがないのにわざわざ動くわけがない、それだけのことだ。 「目はどうだと思う?」 「……分かんない。ちょっと待って」  よほど死体への抵抗が少ないのだろう、夜口は何の躊躇いもなく瞼を押し上げた。 「あれ?」  夜口が意外そうに首を傾げる。しっかりと眼球は残っていた。在るべき姿をして、在るべき場所へと収まっていたのだ。 「まだ取られてない、と考えるべきなのかしら」 「さあ。そんなの犯人にしか分からないだろう」 「そうね。その通り」  夜口は扉を閉め、ゴム手袋を脱ぐ。ビニールに入れて封をしてからバッグへと仕舞った。 「そういえば――」  夜口が僕を見る。 「今日の用事って何だったの?」
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