case1.蒐集家の目

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「んー、何となくなんだけど、誰かに触れていると安心するんだよね。自分と他人の境界、命の境目に触れている気がして。そういうの、橘くんはない?」 「僕は……ない。僕と君とじゃ人に対する見方が違う」  夜口は意外そうな表情で僕を見てきた。その視線に耐えられず、暇潰しに持ってきていた本に目を落とす。  文字を追っても内容が頭に入ってこなかった。こういうのを緊張と言うのかもしれない。 「よく分かんない」 「分からない方がいいと思う」 「どうして?」 「幻滅するだろうから」  顔を上げて夜口を見る。夜口は、初めの体勢のままで僕を見ていた。合った視線から感じたのはなぜだか悲しいという感情だった。 「そんなことない! 幻滅なんて、そんな――」 「今のは忘れてくれ。それより本題に入ろう。時間が勿体ない」 「……分かった」  夜口はテーブルを迂回して反対側の椅子へと座った。これで僕と向き合う形になる。  椅子に座った夜口は黒い鞄をテーブルの上に起き、それから口を開いた。 「今日きみを呼んだのは、ちょっと頼みたいことがあったからなの」 「それは携帯で伝えられるような内容じゃないのか?」 「携帯なんて駄目よ。直接会って頼みたかったの。それにメールとかってあんまり好きじゃないし」 「……」  嘘をつくなと言いたかった。あの文面は明らかに慣れた者のそれだ。なぜ僕にそんな嘘をつくのかは疑問だが、それは今問うことではないはずだ。
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