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それから程なくしてバス停を発見した。
夜口は一切の迷いを見せずに設置されたベンチに腰かけた。学校指定のバッグを太ももの上に置いてから、僕を一瞥する。
続いて自分の隣へと視線を落とした。
座れ、ということなのか。
迷っているともう一度夜口は僕を見て、微笑んだ。……。隣に座る。学校指定のバッグは太ももの上ではなく、地面に直接置いた。
辺りを見回すと人通りは皆無で、風景から出る雑音だけで世界が構成されている。世界から切り離された、二人きりの空間が完成していた。
もちろんそこに会話は無い。
おまけにバスも来ない。仕方ないので眩しい陽の光から眼球を保護するべく目を細めることで僕は暇を殺した。
ねえ、と夜口が声をかける。
「きみには女性を楽しませようとか、そういう気持ちはないのかな?」
「え、」
咄嗟のことに反応出来ずに言い淀む。
「放課後、高校生、二人きり――こんな状況で会話の一つもないなんて、ある意味異常だと思うけど」
こいつ、そんなことを考えていたのか。人のことは言えないけど。
「悪い。夜口は会話とかそういう俗世っぽいことに興味がないのかと思ってた」
「それって人として致命的な欠陥よね。まあ確かに必要最低限のコミュニケーションスキルしかないけど、会話を楽しむくらいの余裕はあるつもり」
「そうなのか。クラスの誰かと話してるの見たことないからてっきり――」
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