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「独りが好きなんだと思ってた?」
「……正直」
若干落ち込んだようにも見える夜口。反射的に身構える僕。フォローを入れるべきか、しかし一体どうやって――
「まあそれもしょうがないことなのかな」
「え?」
「クラスの人で興味があるのって橘君だけだし。そういう意味では橘君との会話以外に興味がない、ということになるかもね」
澄まし顔でそんなことを言う夜口。状況が掴めず眉間と拳に力が入る。一体僕はこんなところで何をしているのだろうと混乱が脳内で反乱を起こし、いとも簡単に困惑を極めた。
「あ、バス」
突然夜口が言った。夜口の視線を追って振り向くと、確かにバスが近付いてきていた。
夜口が立ち上がったのでそれに倣い、バス停の時刻表の横に並ぶ。
さっきの会話は無かったことにされたのだろうか。掘り下げることも出来ないような微妙な内容だったので、今回はバスに救われた形と言える。
「あ、さっきの話の続きはまた今度だからね」
「……そうだな」
……。停車したバスに夜口が乗る。膝裏まで伸びた制服のスカートの折り目を見ながら、続いて僕。
平日の夕方ということもあってか座席は空いており、後ろがいいという夜口の要望に応えて最後列の座席に並んで座った。
程なくしてバスは発車し、夕日を背にする形で目的地を目指す。
「なあ夜口、君が僕に見せたいモノってのは何なんだ?」
好きな食べ物はなに、と聞くよりも脈絡のある質問だと思う。
「愚問ね。今ここで話したら驚きも何もないじゃない。教えるわけないでしょ」
「まあ少なくとも驚くようなモノだというのは分かったよ」
夜口は呆気に取られたのか、口を開いたまま動かない。
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