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同時に夜口がこちらを向いた。なぜだか顔は依然赤いままである。
「今のは?」
「単なる興味。作られたみたいに綺麗だったからね」
両親によって作られたという考え方もあるけど、そこに意思は介入しないので省略。素材だけの提供ということで。
「えーと、変態気質? 髪フェチ?」
「僕は美しいものが好きなだけだ。その美しさに理由や由来があるならそれも知りたい。それだけ」
「橘くんはやっぱり変わってるよ。でもまあ、ありがとね」
お礼を言われてしまった。理由は分からないが、まあ、そういうこともあるのかもしれない。どう致しまして、と返しておく。
そんな風に曖昧な会話を繰り返してから、僕らはバスを降りた。街の中心からさらに遠ざかり、郊外の住宅地も抜けた先の――そこは自然と古びた民家が混在する山の麓だった。
「思ってたより涼しいかも」
「ああ、けど蝉がうるさい」
ここぞとばかりに奏でる羽音(定かではない)が鼓膜を揺らす。余命一週間は僕らにとってはあまりに短く、蝉にとっては……どうなのだろう。
「ほら、呆けてないで早くっ。陽が落ちたら厄介なんだから」
パシンと背中を叩かれた。夜口は一歩前に出て僕を見る。
確かに夜は刻一刻と近付いていた。バスで二十分程ではあるけど、そもそもバスの運行が終了してしまったら意味がない。
「ここからはまた歩きだろ? 案内頼むよ」
夜口は頷いて、歩き始めた。そこに迷いがないから、多分道に迷うことはない。問題があるとすればそれはこの場所そのものだ。
そうここは――。
バス停を離れ、疎らにしかない民家を避けるように進んでいく。人気がない。こんな時間帯に学生が歩いていれば注意の一つもあるだろうと思ったけど、その心配もないようだ。
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