case1.蒐集家の目

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 ふと空を見上げれば、もうすでに夕方から夜へと模様替えをしようとしていた。山を覆うように群生する森も闇に乗じて不気味さを増し、まるで一個の生命体として君臨しているようだ。  森のざわめきや鴉の鳴き声がその原因なのだが、そう理解していても雰囲気に飲まれそうになる。夜口は大丈夫なのだろうか。 「夜口」 「なに?」 「君はこういうの、平気なのか?」 「ん、そういう抽象的な質問をされてもよく分からないんだけど」  夜口は別段ふざけた様子も見せずにそう言った。僕は小走りで夜口に駆け寄って隣に並ぶ。首を少しだけ傾げてこっちを見る夜口。 「どうしたの?」 「いや、何となく。さっきのはこういう暗いところは平気なのかって聞いたんだ」 「残念、その質問はパスさせてもらうわ」 「え?」  夜口は右手を上げて人差し指を突き出していた。視線を肩から指先へと順に移動させていき、差す方向を見る。 「あそこよ」  そこには廃屋があった。  背の高い木々に囲まれひっそりと佇んでいる。家というよりそれは物置のような印象を受け、二階建てでも大きいとは感じない。廃屋の前には木を利用したロープが張られていて、そこには「立入禁止」の札が提げられていた。 「……」 「ほら、あともう少し!」  夜口が急かすように腕を掴んできたが、僕は動かずに目を閉じた。  視界が黒色に染まる。光の存在を許さない世界だ。 「――どうかした?」  夜口は心配そうな声で話しかけてきた。  その声はとても澄んでいて、僕の心拍の高ぶりを抑えてくれる。しばらくそうしてから目を開けた。
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