case1.蒐集家の目

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 夜口は親を探す子犬のような表情をしていた。 「何でもない。行こう」 「……変なの」  夜口は僕の腕に絡めた指をほどくことなく歩き出した。引きずられる形でついていく。  近付いてみると分かるのだけど、廃屋は結構な年季を重ねているようだ。白い壁には長いツタが蔓延り、二階部分にある窓は割れている。  唯一の出入り口と思われる扉に手をかけた。無理やりに手前に引くと、木のこすれる甲高い音がした。  中は真っ暗だった。出入り口から少しだけ光が入るくらいで、慣れていない目にはキツい。 「少し待とうか」 「懐中電灯を持ってきたの。確かここに、きゃっ――」 「――っ」  夜口に掴まれていた腕に痛みが走る。思い切り引っ張られバランスを崩しかけたが何とかこらえ――咄嗟の判断で闇雲に手を伸ばした。何かを掴む。支えるように引き寄せて、抱きかかえた。  目が暗闇に慣れたおかげで状況を把握出来た。夜口はすっぽりと僕の腕と胸の間に収まって、キョトンとしている。 「大丈夫?」 「あ、ありがと。足下、気をつけるね」  何かに躓いたのだろう。暗かったのだから仕方ない。僕は扉近くの壁に手を伸ばして、スイッチを押す。天井にぶら下がる蛍光灯は数秒瞬いたあとに部屋全体を照らしてくれた。 「怪我は?」  僕に寄りかかる夜口を立たせてから距離を開ける。 「なんとかね。それより二階に行かないと」  出入り口の扉から見て真正面に、何とも頼りない階段があった。踏み板なんて腐り切っていて、少しの重みで瓦解しそうだ。  夜口はくるりと向きを変えて階段に向かう。恐怖心や警戒心が欠如しているとしか思えない足取りだ。言いながら僕も後に続く。
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