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こんな事をするために
今まで我慢してきた訳じゃないのに…
ぼんやりと薄暗いカウンターの中で
見るともなく宙を眺める。
お母さんは
お母さんは、どこ…いったの…?
「これからは、一緒に暮らせるね」
優しく手を握られて、言われた言葉が思いだされた。
やっぱり、病気は嘘で、騙されちゃったの?
嘘でも
もう一度、会いたいよ…
「キラ、…アキラ」
「な、なに…?」
「お客様が呼んでるよ、早く。」
言われて体が強ばる
現実に引き戻されて
カタカタと、油が切れた人形のように、カクカクと首を言われた方に動かし、体を前へ、前へ…
何にも感じない
何でもない
何でもない…
僕は男だ…男
これは、ただの仕事
見てごらん、みんな何でもないように、振る舞ってるじゃない
自分に出来ない事ないだろ
一生懸命、心で呟いて
泣きそうになるのをこらえて
「こ、こんばんは…」
アキラは呼ばれた席につくと、懸命に声が震えるのをこらえて声を出した。
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