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吐いたって何にも出てこない。朝から食べ物が喉を通らなかったから
ふらふらと立ち上がり、目に止まった自販機で水を買って、口を濯いで縁石にしゃがみ込んだ。
怖かった
嫌悪感と罪悪感の隙間から、コッソリ覗く禍々しい感情
快楽の扉
男の恍惚とした表情を
満足げに見上げる自分
あれは僕じゃない
アキラは俯いたまま、動けないでいた。
たまに行き過ぎる人も、車もアキラの事は気にも止めない。
有りがたいと思う反面、寂しいとも思う。
早く戻らなきゃマネージャーが心配する…
お客様を取らないと、お金が返せない。
お母さん、これがどんな仕事か、知ってたの…?
いや、仕方無しだよ…きっと仕方無く
言い聞かせながら
知らないうちに涙が流れる
泣いたら仕事が出来ない、僕はすぐ鼻が赤くなるから
アキラは慌てて顔を上げて、手で拭う。
近づいてくる車のヘッドライトが眩しい
いい車
どんなお金持ちが乗ってるんだろう…
通り過ぎる車を目で追いながら、なんて世の中不公平なんだろうかと思う。
今し方、通り過ぎた車が、すぐそこで止まる。
運転席のドアが開いて、人が降りた。
背の高いシルエットはゆっくりと、アキラの方へ近づいてきた。
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