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しゃがんだ格好のまま膝を抱えた腕の隙間から、目だけを覗かせてそちらを見る。
近づいて来る陰がさっき別れたばかりの紳士に似ていて、アキラはゾクリとした。
「…君、大丈夫かい?」
街灯に照らされた男は品の良い控えめな笑顔でアキラに声をかけた。
足元は良く磨かれた靴、着ているのは仕立ての良いスーツ
「具合が悪い?」
子供をあやすような育ちの良さげな穏やかな声
「君…?」
返事をしないアキラに紳士は心配そうな表情し、屈んで肩に軽く手を触れる。
その感触がくすぶる何かを思い出させて背中が粟立つ。
「何でもない、触らないで!」
アキラは手を払いのけ立ち上がり紳士を睨みつける。
紳士は驚いて、一歩後退りして、アキラの顔を目を見開いて見た。
…泣いている
可愛らしい顔に不似合いなキツい眼差し。
泣き顔を見られたからか
「大丈夫なら、いいんだ。心配だったものだから…つい。悪かったね…」
そっとしておいてあげるべきだった?紳士は余計な事をしたと思った。
自分の体を抱き込むように腕を組んでアキラは横を向く。
この人は何も悪くないのに
親切なだけ
なのに僕に謝って
八つ当たりのように振る舞って恥ずかしい。
アキラはギリッと奥歯を噛み締めて、逃げるようにその場を走り去る。
「君!」
紳士の呼ぶ声が後ろで微かに聞こえたけれど、立ち止まる事はしなかった。
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