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「……死ね、この腐れ童貞。腐れ」えっ、俺、そこまで言われるようなこと言った?
首を傾げた俺だったけれども、紗綾は凍てつく視線で俺を射抜き、ふたたび携帯を取り出して電話をかけた。俺を捨て置き、交渉の電話をかけるつもりなのだろう。
……キレても、仕事はちゃんとしてくれるしい。なんだか、すごく申し訳ない気持ちになってきた。でもなぁ、と未練がましくこう思う。
――本気で勝てそうな気がしたんだ。
☆ ☆ ☆
それから後のことを説明すると、実に簡単にことは運んだ。紗綾の巧みな話術には詐欺師もかなうまい。まあ、紗綾のは詐欺ではないので、比べるのは紗綾に失礼だろうけれど。
紗綾は、電話越しに石動氏の母親と数十秒だけ会話し、そのまま事務所を出ていった。直接石動母(あるいは両親)と話をしてくるのだろう。
ここまでいけば、契約をとったも同然である。紗綾が直接足を運んで失敗したことなどないのだ。むしろ、俺が下手に出しゃばった方が失敗するし。
だから、契約は紗綾に任せて、他の――(法的に)危険なことを紗綾がいない間にするのだ。
まあ、と言っても、今回はそんなに危険なことなんかしなくて済むだろう。俺の予想が正しいのなら。
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