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先っぽをつかんでこちらに引く。一瞬だけビンと抵抗感があったが、すぐに消え去り、「ごめんなさいごめんなさいひっぱらないで」と陰から幼馴染が釣れた。
おざなり感は否めないけれども、一応は謝ったので手を離す。それにしても、なんて手触りの良い髪なんだろう。
シャンプーする際に必ず触れる俺のそれと同じものとは思えない。と、呆(ほう)けた顔でさっきまで紗綾の髪に触れていた己の手を眺めていると、
「でも」と、後頭部を撫でさすりながら秘書が言う。「本当にどうしたの? あなたがお茶を入れてるなんて……今まで一回もしてくれたこと、なかったじゃない」
俺なりの精一杯の謝罪のつもりだったのだけれども、いざ、面と向かって言えるかと言うと――否である。だってはずいじゃん。
いつも迷惑をかけているお詫びとか、そろそろパ……『銀行』から足を洗うのもいいかな、と考え、『普通っぽい』ことをしたとか、いろいろな考えがあった。でも――、
「おっ、俺が単に、茶を飲みながらっ、おまえから話を聞きたかっただけでぃっ!」
口から出たのはそんなセリフで、加えて恥ずかしさのあまり、おかしな言葉遣いになってしまった。怪しいことこの上ないな……。
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