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余計なお世話だ。
「放っておいて――」
「わっしはおまえさんの心配をしてるのではない。おまえさんがいなくなったら、あの女の子が悲しむ。だから、老婆心めいたことを言ってるんだ」
「……ッ!」
それを言われると、何も言い返せない。昔からずっと感じてきたジレンマ。マスターが指摘してきたのは、それだ。
俺は紗綾を不安にも心配させたくもないし、悲しませたくもない。なのに、探偵という胡乱(うろん)なことをやっている俺は、それだけで彼女を不安にもさせるし心配もさせてしまう。それでもまだ、探偵をやめるわけにはいかないのだ。
「……あいつを、ぶた箱に入れるまで。俺は止まらない。止まれないんだ……」
紗綾が慕っており、おそらくは恋愛感情を抱いていたであろう先輩を、紗綾と俺の目の前で殺した連続殺人の指名手配者。今なお捕まらず、この国のどこかで誰かを殺しているあいつを捕まえるまで。
これは他の誰でもない自分のためだ。その場に居ながら何も出来ず、ただ震えているだけしかできなかった俺の、地団太みたいなもの。
俺が探偵になった理由は、そいつを捕まえるためだ。これは紗綾には教えていない。
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