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とある町の隅っこ――うらさびれた区域に、我が家兼事務所となっている建物がある。見た目は平凡な二階建ての建築物と変わらない。
そりゃそうか。もともと普通の家を買い取り(幼馴染が)、そこをひょんなことから探偵事務所にむりくりしたのだから。
ちなみに一階が事務所であり、二階が俺のプライベートルームとなっている。
その、マイホームにパチ……『銀行』に行って貯金をして財布が素寒貧になって帰った俺を出迎えてくれたのは、有能なる秘書の鉄拳であった。
まさか、もうここに出勤をしていると思わなかった俺は、なすすべもなくそれを喰らった。
「……っ痛(いっつ)ー……っ」なんて、ノーセンキュウーな出迎えだろう。
裸エプロンで抱きついてくるなんて高望みはしないから、せめて……せめてもうちょっと一般的な出迎えをしてほしいところだ。何回言っても聞いてくれないので、今となっては半ば黙認になっているけれど。
馬耳東風にもほどがあるな。
ここいらで、俺が雇用主なんだと、もう一度再認識させなきゃ、と思いながら俺は口を開いた。
「いきなり拳とは、どういう料簡(りょうけん)だ」
そう詰問口調で尋ねると、彼女は無表情に、
「どうせ、全財産をすってきたんでしょ? だから、問いただす手間を省いて殴ったの」
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