第一章

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 味もそっけもないが、それが一番ふさわしい言葉なのだから仕方がない。  くっきりとした二重まぶた、吸い込まれそうな不思議な光沢のある黒い瞳、すっと通った鼻筋、むさぼりつきたくなる唇、魅惑の腰のライン。他にもほめる言葉を探せば、一時間は優に喋れる。  見慣れた俺ですら、たまにどきっとしてしまうのだから、街では注目の的だろう。高校時代、毎日告られていたのも納得がいく。なぜか、誰とも付き合いはしなかったけど。  それはたぶん、今はいないあいつのことが好きだからなのでは、と俺は睨(にら)んでいる。確信はない。勝手な憶測にしか過ぎないけど。  その話については、いずれ語る機会があるだろう。今は、こいつ――神祇紗綾(じんのぎさあや)の給料問題の方が先だ。そろそろ本当に愛想を尽かされかねない。  今まで尽かされなかったのが奇跡なくらいだ。こいつにいなくなられたら……困る。  かと言って金は今、前述したけれども三円しかない。さすがにこれが今月の給料だ、はないし、パチ……『銀行』で増やしてくるから金貸して、は無理だし確実に退職届をつきだすだろう。  どうしたものかと腕を組んでうんうん唸っていると、 「どうしたの? いきなり考えだして」
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