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不思議そうにきょとんとした顔をして、コーヒーを差し出しながら尋ねてきた。まだ、水道とガスが使えるのか、と思いながらそれを受け取り、
「いや、紗綾の給料払いたいけど……金をどうやって工面しようかと」
紗綾は大きくため息をついた。哀愁漂(あいしゅううただよ)う表情になり、こめかみを押さえ、
「この間、あなたが興味を持ちそうな事件のリストを渡したでしょう? それを見て選んだら? いいの見つけたらわたしが依頼にこぎつけてあげるから……」
誰か鏡をよこせ。今の俺は鳩が豆鉄砲を食らったと形容するにふさわしい面をしているであろうからだ。一回見てみたかった。いや、それはさておき、
「おまえ……天才か……ッ!? さすが、俺の秘書! 愛してる! 大好きだ!」
抱きつくのは後にして、さっそく俺はその資料を探すことにした。
背後で紗綾が、「なっ、ば、ばっ、馬鹿じゃないの!? もっと雰囲気とかいろいろ……」とごにょごにょ言っていたけれど、俺は無視した。資料、資料っと。どこに置いたっけ……?
☆ ☆ ☆
俺の事務所の内装はさっきも述べた通り、普通の家の一階を事務所にしただけなので、みなが浮かべる探偵事務所のイメージとは大きくかけ離れているであろうことは、想像に難(かた)くない。
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