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美人秘書は軽く嘆息してから、その資料の内容をかいつまんで話してくれた。俺はそれをハンバーグドリア(あまりおいしくない)をおいしそうに食いながら聞く。
……うーん、どれもあまりピンとこない。仕事を選んでられる身分じゃないのは百も承知。でも、やりたくもない殺人事件なんか、関わりたくないのは普通の心理だろう、とも思うのだ。
「次で最後よ」と、落胆気味の幼馴染。
ハンバーグを咀嚼(そしゃく)しながら、ちらと紗綾を盗み見る。声と同じような表情を浮かべていた。
……卑怯じゃないか。そんな顔されたら、次のやつをやりたくなくても選ぶしかない。
俺はこんな紗綾の顔はもう見たくないのだ。
ま、たまにはいいか。せっかく紗綾が俺のために選んでくれた事件だ。たまには悪くない。
と、そう思っていた矢先のことだ。俺の探偵脳にびびっと来たのは。自然と、俺の口は笑みに歪む。――面白い。
「紗綾、それ、もう少し調べられるか?」
俺の意識はいつもとは違う、探偵のそれになっていた。紗綾は、俺のその表情を見ると、何故か顔を少し赤くしたけれど、表情自体は明るいものとなっていた。
いつもこうならいいのに、とつぶやいたのが気にかかるけれど、まあ、この事件の前では些細なことだ。
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