雲と彼女の日課

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朝。 リーゼントのおっさんぽい少年に問答無用で応接室に連れて来られた。本当、何時代だと思ってるんだコイツら。 「――また君?」 ドアを開けた途端、言われる。 「『また』っていうのは心外なんですけど。そっちが呼んだんじゃないの?―――雲雀」 だいたい私は一度も自分から此処に来たいなんて思ったことも言ったこともない。 「そんな恰好してるからでしょ‥‥いい加減諦めたらいいのに」 サラサラと紙にペンを走らせながら言う雲雀を後目に、どっかとソファに座り込む。ふかふか。 「服装ってもんは個人の自由でいい気がするんだよね」 草壁にお茶を頼んで――雲雀のついでと言えば煎れてくれる――頬杖をつきながら言う。 「この学校にはちゃんと制服がある」 「その制服が私は嫌って言ってんだけど」 「君の好みにいちいち合わせるなんて無理だ」 「誰も私に合わせろなんて言ってない。表現の自由は大切「校則を破るのは表現の自由だと?」 「‥‥‥‥」 口をつぐむ。 ここんとこ一ヶ月くらいこのことで論争を繰り広げてはいるが――…ぶっちゃけ飽きた。 「もし私が制服を着たら、雲雀もブレザーを着る?」 ふと思いついて言う。 「風紀委員は学ランと決まってる。 それに、僕にブレザーが似合うと思うかい?」 「ですよねーー」 雲雀がブレザーを着たら生徒どころか教師まで驚いて授業にならなそうだ。 「‥‥君、もう教室行ったら? そろそろ一時間目始まるでしょ」 「はいはい。 風紀委員長様の仰せのままに」 「だったらちゃんと制服着て来てよ」 「んー、気が向いたら」 軽口をたたきながら応接室のドアを開ける。 「雲雀も、ちゃんと授業出なよー」 「後でね」 「おう」 ドアがバタンと閉まる。 雲雀はいつも通りカレンダー――勿論今日の日付――に書き込んだ。 「委員長。彼女、昨日よりおとなしめでしたね」 「制服じゃないことに変わりはないよ」 カレンダーのタイトルには、こうある。 『コスプレ記録』 そして今日の日付のところに書いてあるのは‥‥ 『吸血鬼』だった。
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