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「最期のわがまま聞いて。一緒に月食、見よ。ちょうど今日なんだって。」
「…うん、ええよ。先生に許可もらってくるわ。」
オレは岳人の部屋から出た。
何で岳人やねん…
何で岳人が死ななあかんねん…
何で…
オレはその場に崩れるように座り込んだ。
岳人は何も悪い事してへんのに…
「侑士くん?大丈夫かい?」
岳人の担当医に声をかけられた。
「あっ!?先生。大丈夫です。それより岳人と一緒に今夜、外で月食見てもええですか?」
「…岳人くんは暖かい格好をさせて行ってきなさい。思い出をいっぱい作って岳人くんが“いた”と言う事を忘れないためにね。」
「ありがとうございます。」
オレは病室に戻った。
「早かったな。」
「そこでちょうど先生にあってん。」
「で、どうだった?」
ベッドから落ちんばかりに身を乗り出して聞いてくる岳人。
「ええって。暖かい格好して行こな。」
「うん。」
君が“いた”という証を残そう…
「侑士、見て見て!!もう月食始まってる!」
オレ達は病院からほど近い河原で月を見ることにした。
月はもう真っ赤だ。
「また、一緒に見ような。」
…えっ!?
「来世でも来来世でもオレはずっと侑士といたい。」
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