自転車

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え? 何よ急に。面白い話しを聞かせてくれだなんて。 初対面なのに図々しいわね。 ああ、ちょっと、拗ねないでよ。わたしがいじめてるみたいじゃない。 しょうがないな。酒代をおごってくれるんでしょう? なら、そうね、初恋話しでも聞かせてあげるわ。 あれは、わたしが高校一年生だった頃よ。 三年の先輩にね、すごくかっこいい人がいたの。 出会ったきっかけは覚えてないけど、自然に仲良くなってさっ。 その人、弓道部に入っていてね。彼の袴姿は凛としていて、なんてゆうか、そう、彼の周りだけ空気が綺麗に見えてた。 こう、流れるように弓を構えてね。 すって、矢を放つの。すごく、うん、綺麗だった。 別に付き合っていたわけじゃないけど、彼、わたしより先に部活が終わった日は、わたしの所まできて、帰ろうかって、迎えにきてくれてた。 そうそう、彼は自転車が趣味でね。よく後ろに乗せて貰ったなぁ。 彼の背中に顔を埋めたりしてさ。 うん。淡い思いでってやつかな。 わたしも時々、自転車に乗ってね。彼の遠出……うーん、小旅行? まあ、そんなようなものに付き合ってさ。 楽しかったなぁ。 でも、彼が卒業してからは自然に疎遠になったわ。 未練? まあ、なくはないけど。結局、手を繋いだぐらいの関係だったしね、それでよかったと思う。 そうね。貴方の言う通り、純粋な恋だったといえるわね。 でも、わたしは少し違うと思う。 わたしと彼の関係は、薄いガラス細工みたいなものだったんじゃないかな。 ちょっとした刺激で壊れてしまう、繊細なね。 だから、わたしも彼も、ガラス細工を壊さないように、繊細な付き合い方をしていたんでょうね。 さて、わたしの話しはこれで終わり。 そろそろ名前ぐらい教えてよ。フェアじゃないでしょ? ん? 葉木乃竜一郎? 何処かで聞いたような名前ね……うーん、思い出せないな。 まあ、いいわ。 それじゃっ。 酒代宜しくね。 縁があったら、また何処かで会いましょう。
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