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あの事件が起きてから数ヶ月。
事件現場に花束を供えようと思ったのは気紛れだった。
そう、路上で警察官が万引き少年に刺され殉職したあの事件に、僕はたいして興味を持っていなかった。
よくある話しに、いちいち悲しんでいたら切りがない。
夏空は高かったが、不思議と暑くはなかった。
馬鹿みたいに空を見上げて歩き、目的地につく。
なんの変哲もない路地裏。そこには、意外にも先客がいた。
先客は、立ったまま静かに黙祷している。
どうしようか一瞬迷う。自慢だが、僕は人見知りするのだ。初対面の人と話しをするのは苦手だ。
こちらがまごついている間に、先客は僕の気配に気づいたのか、すっと振り向いた。
綺麗な女だと思った。
「あの、彼のお知り合いですか?」
「いえ、通りすがりです」
「そう……ですか」
女は、残念そうにため息をつく。
「……失礼します」
軽く頭を下げて、女は背中を向けて歩きだした。
その背中を見て僕は
「あの」
つい呼びとめてしまった。
「なんですか」
何処か陰りのある視線が僕を捕らえる。
「よろしければ、話し相手くらいしますけど?」
いかにも間に合ってます的な雰囲気が漂った。
が、女は一つため息をつくと手招きして歩き始める。
彼女の背中は、ひどく小さく見えた。
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