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秋那は、何故かそこにいた。
公園の真ん中に呆然と立ちすくみ、目の前の少女を見つめていた。
少女は、クリッとした大きな瞳で秋那を捉え、小さな手を一生懸命に差し出していた。
「行こうよ、秋那」
少女の声が、秋那に浸透していく。
まだあどけなさが残る幼い声色は、明るさを存分に帯びていた。
──ああ、またか。
秋那はそう思い、暗く深い喪失感に襲われた。
幼い頃の記憶が曖昧な為か、見るのはいつもこの場面のみ。
それを見ている事しか、秋那は出来ないのだ。
「秋那はあたしが、守ってあげる。お父さんの分も、あたしが傍に居るから!」
ニッコリ笑った少女の目尻に、光る雫があったのを鮮明に覚えている。
幼い秋那は、少女を抱き締めて胸を貸す事など、考えつきもしなかったのだ。
差し出された手をギュッと握り、秋那は少女と走り出した。
脆く、儚い、それでも今はもう叶える事の出来ない夢。
幼き頃の、唯一の記憶である。
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