街中の逃避行

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唐沢家の朝食は、自分の好きなように組み合わせを選ぶ事が出来る。 例えばパン。 普通のトースト、ベーグル、フレンチトーストやサンドイッチなど、多種多彩なレパートリーから、店で注文するようにして選ぶのだ。 飲み物は牛乳、コーヒー、紅茶など。 付け合わせにはサラダ、ベーコンエッグやヨーグルトがあり、これらから選び組み合わせる事で、唐沢家の朝食は完成する。 秋那は朝の風景と共に、そんな朝食も大好きだった。 穏やかな天気、清々しい朝日、美味しい朝食。 学生には「起きる事がツラい」と嫌われがちな朝だが、秋那はそれを苦にしたことなどなかった。 「柚稀はまだ寝てる?」 秋那はトーストをかじりながら美咲に尋ねた。 トーストの香ばしい香りと塗ったジャムの甘い匂いに、自然と頬が綻ぶ。 美咲は秋那の質問に、フフッと笑って答えた。 「まだお布団の中。大好きなお兄ちゃんが、優しく起こしてくれるのを待ってるわ」 「や、やめてよ。柚稀はそんな風に思ってないって」 冗談にしては、タチが悪い。 何せ異性に極端に耐性の弱い秋那には、寝ている妹を起こしに部屋に入る事すら戸惑う程だ。 秋那は慌てて言い返すと、席を立った。 「ごちそうさま。じゃあ起こしてくるよ」 「はーい。頼むわね、お兄ちゃん?」 最後まで面白がっている笑みを崩さず、美咲は秋那を送り出した。
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