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「……あにきー、おこしてよー……」
柚稀の甘えた声に、秋那は体の硬直を解き、クスッと笑った。
何を隠そう普段の柚稀は、今のような甘えん坊とは大違いの意地っ張りなのだ。
──もう、仕方ないなあ。
寝起き時は、子猫のように甘えた表情に声を発する妹を、秋那は素直に可愛いと思っていた。
左肩側がずり落ちているタンクトップをしっかりと直し、秋那は柚稀を引っ張り起こした。
「! っ、と」
上体を起こさせると、柚稀は引っ張られた勢いをそのままに秋那にもたれ掛かった。
慌てて抱き留めたが、あと一瞬遅ければ柚稀はベッドから転がり落ちていただろう。
そうなった場合、落ちた本人よりも痛い思いをするのは秋那である。
「柚稀、二度寝したら駄目だよ?」
「えへへへー」
柚稀は、本当に猫のようにスリスリと秋那のYシャツに頬ずりする。
秋那は何やら、無性に猫じゃらしが欲しいと思った。
「ホラ、起きなさい。しっかり立って」
「うん……おはよ、あにき」
まだ半分夢の中の柚稀は、自分で立ったものの足取りがおぼつかない。
目は相変わらず焦点が合っておらず、おまけに片目しか開いていなかった。
「………………」
結局、秋那が家を出たのは遅刻寸前だった。
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