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「でも一体なぜ、内裏が見たいと?いつものお姿であればいつでも見えるのでは」
「そうだな」
博雅に対して頭を下げていく人々に、博雅も笑みを返す。
タケミカヅチもなんとなく、同じように頭を下げた。
「お前と同じ目線になってみたかっただけだ」
「同じ目線?」
「まあ、なんだ。お前の友の晴明に感化されたのかもしれないな」
わずかな逢瀬(おうせ)ではあったが、あの男は面白いとタケミカヅチは言う。
面白いという言葉は褒め言葉なのか貶(けな)しているのか博雅には分からなかったが、タケミカヅチの表情からそれは褒め言葉なのだと受け取った。
友が褒められるのは、嬉しいと博雅は思う。
「博雅」
「うん?」
「顔がにやけている」
「え、そ、そうか?」
「嘘だ」
「な、なにっ、嘘を言うたのかっ」
「あはははっ」
タケミカヅチが面白そうに笑う。
些細な嘘ではあったが、それは晴明のように言葉遊びに近いものなのだと博雅でも感じられた。
だから、怒りなぞ感じなかった。
晴明に似ている、とタケミカヅチを見て博雅は思う。
――え、タケミカヅチがか
――そうじゃ、タケミカヅチはあんなに素直に笑う男ではなかった
だから嬉しい、とウカノは言った。
――なあ、博雅や
――うむ
――お主がハルアキラを救ったように、タケミカヅチも救ってやってはくれまいか
博雅自身、晴明を救った、という自覚はない。
ただ晴明と友になっただけで、晴明と一緒にいるだけで。
それが晴明を変えたのだとウカノや皆は言う。
「どうした、博雅」
「いいや、少し考え事をしていただけだ。さあ、次はどこを案内(あない)しようか」
「そうさなあ、お前が行けるところまで」
「じゃあ次はあすこを案内しよう。おれがいつも、心を躍らせる場所だ」
きっとタケミカヅチも気に入る。
タケミカヅチは博雅と同じで、楽(がく)を嗜(たしな)むひとりだ。
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